<VOL.26>
幼い頃に読んだ日本の昔話の冒頭によく出てきた、「おじいさんは山へ柴刈りに、おばあさんは川へ洗濯に…」のくだり。これを読むたびに、私なら「山へ柴刈りに行く方がいいな…」と思っていた。それは、ずっと“木こり”に憧れていたからだ。
『オズの魔法使い』に出てくるブリキの木こり、『金の斧、銀の斧』の木こり、大人になって読んだ『遠野物語』の山で遭遇する天狗などに、妙に魅かれていることが影響しているのだと思う。
深山で木を切っていた木こりが、おてんとうさまを見上げて、「おう、もう昼どきか…」などとつぶやき、腰に提げていたとん蝶を、やおら取り出す…私にとってとん蝶はそんなイメージの魅力溢れる食べものなのである。
老舗和菓子屋が作るこのとん蝶は、竹皮風の包み紙にくるまれた三角形のおにぎり。甘みのあるムチムチの白蒸しおこわに、大豆と昆布の素朴な味のアクセントとカリカリの小梅―これだけで構成された超シンプルなものなのに、どこか懐かしく、心なごむ味わいだ。ここ近年登場したとうもろこし入りも、ツブツブ食感と甘みがとてもいい。
「とん蝶」という不思議な名前は、ショルダーコピーの「ふる里の味」に由来し、ふる里に舞い飛ぶとんぼと蝶を合わせたもの、というから、なかなかの味を醸し出すネーミング。
大好きなとん蝶は、早秋の行楽や出張時に電車に携えて乗り込み、発車も待ちきれず頬張ると、何故かいつもより美味しく感じてしまう。
お出かけバッグの中にとん蝶がおさまっているだけで、いつも何だかほっとして嬉しくなってしまうのだ。
私の手みやげの定番、柿の葉ずし。こちらも山にちなんだ伝統の食べもので、昔からの大好物だ。
創業文久元年(1861)、平宗の柿の葉ずしは旅籠だった時代、吉野の山あいで祭のご馳走として旅人に振る舞ったのが始まりとか。
海から遠い山人のご馳走だった、熊野から運ばれてくる塩鯖と地元米のすし飯を、抗菌作用のある柿の葉で包む。これにはまさに海と山と地の恵みに人の真心が添えられた、日本ならではの食の文化と先人の知恵が詰まっている。
この柿の葉ずし、小腹が減った頃に伺う仕事の打ち合わせ時や、女子会のシメごはんにも喜ばれるし、海外への手みやげにするとオモシロイ。
真夏以外 冷暗所なら2日ほど日持ちがするので、日本を飛び立って1日後、友人の家で箱を開けた時、ズラリ並んだ“葉っぱで巻かれた四角いもの”をシ~ンと凝視するみんなの「コレ、なぁに?」という顔を見るのが、また楽しい。
そこで世界無形文化遺産「和食:日本人の伝統的な食文化」の一つ、柿の葉ずしについてとうとうと語り始めるのだ。
まあそれは、柿の葉を開け いろんなネタが出てくることに、キャアキャア喜ぶひと騒ぎを待ってから、の話だが。
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